デスクで実践!アイデアを引き出す「問い」のフレームワーク
プロジェクト推進の鍵を握る「問い」の力
日々の業務に追われる中で、「何か新しいアイデアが必要だ」「今のやり方では壁にぶつかる」と感じることはありませんでしょうか。特にプロジェクトマネージャーのような立場では、現状分析から課題設定、解決策の考案、そしてチームの発想を促すなど、様々な局面で「アイデア」や「創造性」が求められます。
しかし、アイデアは待っているだけでは生まれません。意識的に思考を深め、新しい切り口を見つけるための「きっかけ」が必要です。その強力なきっかけとなるのが、「問い」です。適切な問いを立てることは、思考の焦点を定め、隠れた可能性を引き出し、既存の常識を疑う力となります。
この度ご紹介するのは、デスクワークで手軽に実践でき、個人だけでなくチームの発想力向上にも繋がる「問い」を活用したフレームワークです。特定のツールを必要とせず、紙とペン、あるいは普段お使いのデジタルノートやテキストエディタがあればすぐに始められます。
なぜ「問い」が発想力に繋がるのか
私たちの脳は、問いを投げかけられると、自動的にその答えを探そうとする性質があります。これは「思考の焦点化」と呼ばれ、無数にある情報の中から、問いに関連するものを選び出し、結びつけようと働くためです。
漫然と考えるだけでは、既存の知識や経験の範囲から抜け出しにくい傾向があります。しかし、「もし〇〇だったらどうなるだろう?」「この問題の本当の原因は何だろう?」といった問いを立てることで、普段は意識しない視点や、見過ごしていた可能性に気づくことができます。
特に、以下のような場合に「問い」は強力な効果を発揮します。
- 新しい企画やアイデアを生み出すとき: ゼロから何かを生み出す手がかりとなります。
- 問題解決に取り組むとき: 問題の本質を見抜いたり、多様な解決策を検討したりする助けとなります。
- 現状を打破したいとき: 既存の前提や思考パターンから抜け出すきっかけを与えます。
- チームの議論を活性化したいとき: 参加者の思考を刺激し、多角的な意見を引き出します。
デスクで実践できる「問い」のフレームワーク:SCAMPER法を応用する
様々な発想法がありますが、ここでは「問い」を中心に据え、デスクで個人またはチームで実践しやすい「SCAMPER法」を応用したフレームワークをご紹介します。
SCAMPER法は、既存の製品やサービス、アイデアなどを改良・発展させるためのチェックリストとして知られていますが、これを「新しいアイデアを生み出すための問いかけ集」として活用することができます。
具体的な手順は以下の通りです。
- 発想の対象を定める: 新しいプロジェクトのアイデア、既存業務の改善、特定の課題など、今回考えたいテーマを明確にします。
- SCAMPERの各要素を問いに変換する: 以下の各要素について、対象となるテーマに当てはめて問いを立てていきます。
- 問いに対するアイデアを書き出す: 立てた問いに対する答えや、そこから連想されるアイデアを、思いつく限り書き出します。
以下に、SCAMPERの各要素と、それを問いに変換した例を示します。
S: Substitute (置き換える)
「他に何かで置き換えられないか?」という視点から問いを立てます。 * 例: この機能は別の方法で実現できないか? ターゲット顧客を別の層に置き換えたら? 使っている材料/技術/プロセスを変えたら?
C: Combine (組み合わせる)
「何かと組み合わせられないか?」という視点から問いを立てます。 * 例: 他の製品/サービスと組み合わせたらどうなるか? チーム内の別のアイデアと統合したら? 複数の機能を一つにまとめられないか?
A: Adapt (応用する)
「何かを応用できないか?」という視点から問いを立てます。 * 例: 他の業界の成功事例を応用できないか? 過去のプロジェクトの知見を活かせないか? 自然界の仕組みからヒントを得られないか?
M: Modify / Magnify / Minify (修正する / 拡大する / 縮小する)
「何かを修正・拡大・縮小できないか?」という視点から問いを立てます。 * 例: 機能やデザインを一部修正したら? 規模を大きく/小さくしたら? スピードを速く/遅くしたら? 特徴を強調したら?
P: Put to another use (他の用途に使う)
「他の用途に使えないか?」という視点から問いを立てます。 * 例: この技術/サービスは、本来とは全く違う顧客層や課題に適用できないか? 副産物として生まれたものを別の用途に活かせないか?
E: Eliminate (取り除く)
「何かを取り除けないか?」という視点から問いを立てます。 * 例: 不要な機能やプロセスを削減したら? コスト要因となっている要素をなくせないか? 必須だと思っている前提を取り払ったら?
R: Reverse / Rearrange (逆にする / 並べ替える)
「逆転させられないか?」「並べ替えられないか?」という視点から問いを立てます。 * 例: プロセスを逆から考えてみたら? 役割を入れ替えたら? サービスの提供順序を変えたら? 当たり前と思っていることを真逆にしたら?
デスクでの具体的な実践方法
このフレームワークをデスクで実践するには、特別な準備は必要ありません。
1. 個人の発想:
- 紙とペン: ノートの中央にテーマを書き、周りにSCAMPERの要素名を書き出します。各要素の下に、それに関連する問いをいくつか書き、さらにその問いから生まれたアイデアを箇条書きで書き込んでいきます。
- デジタルノート/テキストエディタ: 新しいドキュメントを作成し、テーマを記載。見出しなどでSCAMPERの各要素を設け、その下に問いとアイデアをリスト形式で書き連ねていきます。EvernoteやNotionなど、構造化しやすいツールが便利です。
- 思考ツール: マインドマップツール(Xmindなど)や、アウトライナーツールを使っても良いでしょう。テーマを中央に置き、枝をSCAMPERの各要素として広げ、さらに問いやアイデアの枝を追加していくイメージです。
2. チームでの発想:
- オンラインホワイトボードツール: MiroやMuralなどのオンラインホワイトボードツールを活用します。中央にテーマを置き、SCAMPERの各要素ごとにエリアを設けます。参加者はそれぞれのエリアに、思いついた問いやアイデアを付箋形式で貼り付けていきます。離れた場所にいても同時に共同作業が可能です。
- ビデオ会議: 画面共有をしながら、共有ドキュメントやホワイトボードツールに問いとアイデアを書き込んでいく形式でブレストを行います。司会者がSCAMPERの各要素を順番に提示し、全員で問いを考え、アイデアを出し合うように促します。
多忙な中でも実践しやすいのは、まずは個人でテーマに対してSCAMPERの問いを投げかけてみることから始めることです。通勤時間や休憩時間など、短いスキマ時間を活用して、特定の「問い」について少しだけ考えてみるだけでも、普段とは違う視点が得られることがあります。
「問い」を活用するメリット
SCAMPERを応用した問いのフレームワークを実践することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 思考の幅が広がる: 特定の視点だけでなく、多角的にテーマを捉えることができます。
- 前提を疑う習慣がつく: 当たり前だと思っていたことに対し、「本当にこれで良いのか?」と問い直す力が養われます。
- アイデアの網羅性が向上する: チェックリスト的に問いを辿ることで、思考の漏れを防ぎやすくなります。
- チームでの発想を促しやすい: 共通のフレームワークを用いることで、全員が同じ視点でアイデアを出しやすくなり、議論が構造化されます。
まとめ
デスクワークにおける発想力向上は、特別な環境や時間だけではなく、日々の思考の質を高めることから始まります。今回ご紹介した「問い」のフレームワークは、手軽でありながら、既存の枠を超えたアイデアを生み出す強力な手助けとなるでしょう。
特にSCAMPERを応用した問いかけは、思考を体系的に刺激し、新しい視点を提供してくれます。まずは一つの問いからでも構いません。あなたのデスクで、良い「問い」を立てる習慣を身につけてみてください。それは、あなたの、そしてチームの創造性を確実に引き上げる一歩となるはずです。